私は自分の感情を完全にコントロールできる
シングルマザーに育てられ、日ごろから
「ひとに頼るな。自分に頼れ」
「自分で生きていく力をつけろ」
「男はアテにならない」
言葉で、態度で、そう教えられてきた。
幸運なことに、何ら特別な努力をしなくても学業は優秀、弁もたち、容姿も中の上だった私は、集団の中で生き抜いていくためには、あとはコミュニケーション能力を高めるだけだった。
感情をコントロールすること。
良好なコミュニケーションをとる上で、怒りは最も避けたい感情だ。妬みもしかり。
これらをコントロールして、女性の集団の中でいつも感じの良い人でいること。就職してからは上司、同僚、顧客、集団が広がっても悪しきこれら感情をコントロールすることで、私は順調に力強く生きてきた。
しかし、何だ、この感情は
あの人に会うたびに息苦しい。
単なる知り合いの一人のはずなのに。
笑顔を見ても、しかめっ面を見ても、会話をしても、しなくても、存在を認識するだけで、緊張する。呼吸が苦しくなる。
遠くに彼が見える。
こちらに歩いてくる。
どうしたの、私。どうしちゃったの。
大丈夫、落ち着いて、落ち着いて。この私が恋に落ちるだなんて、あるわけがない。男はアテにならないんだから。
大丈夫。普通に挨拶して、ちょっと会話して、そして、そして、
あぁ、どうしてこんなに嬉しいの。
彼の笑顔を見るだけで、嬉しい。
「やぁ」
あぁ、どうしよう。
コントロールできない。
こんなにも彼のことが