「ありがたいねぇ」
曾祖母はよくそう言っては、目を細めていた。
あれは、何歳のときだったんだろうか、
ある日、ばぁちゃんのいいつけで、もやしのひげを取る手伝いをしていたとき
「ウニちゃんも手伝ってくれるの。ありがたいねぇ」
そう言ったひいばあちゃんに
「ありがたい、ってどういう意味?」と、聞いたことがある。
まさか、そんな質問をされると思っていなかったのだろう、ひいばあちゃんは
小さくしぼんだ目をいきなり大きく開けて私を見た
「ありがたいはね、そうだねぇ、とってもうれしいってことかな」
「うれしいの?」
「とっても、うれしいんだよ。そして、そうだねぇ、、、そうしてくれた人のことも、自分のことも愛しいなぁ、って思うことかな」
「いとしい、ってなに?」
「だいすき、ってことだよ」
「・・・ふぅん」
あのとき、ひいばあちゃんは何歳だったんだろう?
ばあちゃんのお母さんなのだから、とっても、なんていうかお婆ちゃんだったんだと思うけど、はっきり分からない。
あの日、もやしのひげを取りながら、私は「ありがたい」にテキトウな節をつけてずっと歌っていた。
「あぁりぃがたぁぁい~♪あぁりぃがたあああい~♪」
「ウニちゃんは歌が上手だねぇ」
ひいばあちゃんが、ゆっくりと手を動かしてひげを取りながら、ほめてくれるのが、とても嬉しかった。
あれ?これがもしかして「ありがたい」なのかな?と思ったものだ。
今は、私が「ありがたい」を連発する番になった。
息子に「ありがた婆さん」と呼ばれては笑われ
孫に「でた!婆ちゃんの"ありがたい"」と言っては笑われる
だって嬉しいんだもの
ありがたい、と言わずにはいられない
白内障がすすんで、細かい文字を読むのが苦痛になったし
耳が遠くなって、テレビやラジオの小さい音が拾えないけど
頬をなでる風の気持ちよさ
太陽の光のあたたかさ
湿った土をさわったときの安心感
今、この世界にいられること
生かされていること
ほんとうに
ありがたいねぇ
すっかり しわしわになった自分の手を見ながら、ひいばあちゃんのことを思い出す
じいちゃんのことを思い出す
ばあちゃんのことを思い出す
とうさんのことを思い出す
かあさんのことを思い出す
そして、夫のことを思い出す
私は幸せです
ありがたいです
お父さん
お迎えはもうちょっと先でいいからね
DMC-GM1で撮影
死んだ父が植えたテッセンに、植えたおぼえのない新顔が巻きついてました。
10年経過して、盛大にもしゃもしゃになったツルが、巻きつくには良い塩梅だと野生の勘で分かったのでしょう。
種の状態で空を飛びながらそんな場所を見つけるなんて、鷹並み?
植物の生きる力ってすごいなぁ
気づいてないだけで、人間も、こんくらいは強いよね、たぶん、
と思った夏の日でした
では